無線の入門 [ホワイトペーパー]
2007年10月9日
はじめに
携帯電話や衛星ラジオといったワイヤレス通信製品は、電子レンジが20年前にそうなったように、今日の日常生活の一部となりました。これから数年間、この技術は消費者製品から工場の作業現場へと広がっていくでしょう。オートメーションおよびプロセス分野の技術者と管理者は、近々現場にも提供されるワイヤレスオートメーション製品を適切に評価して導入できるように、ワイヤレスまたは高周波 (RF) 技術を理解する必要があります。
大気を通信の媒体として使用するワイヤレス製品を使った作業では、より使い慣れた有線製品とは異なる課題が突きつけられます。前身のワイヤレスオートメーション製品は、ごまかされたような騙されたような感触を購入した者に与えていました。パフォーマンスに一貫性がなく、設置・構成・メンテナンスが困難だったのです。
幸いなことに、新世代のワイヤレス製品では、その使いやすさが改善されています。電力消費量が非常に低くなったほか、これらの新しい製品は構成とインストールが簡単で、ワイヤレス接続の信頼性を監視するためのツールが内蔵されています。また、既存の有線インフラとの統合も簡単に実施できます。
ただし、施設にRF計測制御システムを導入する前に、この技術の基本、利点、および制限を理解しておくことが重要です。このホワイトペーパーでは、RFシステムの主な要素と、それらがどのように連携して2地点間でセンサデータを移動するのかについて説明します。
- RF基本コンポーネント
- RF製品の設計で一般的に使用される周波数
- RF信号の様々な変調テクニック
- 無線における環境と干渉の影響
- このホワイトペーパーは、ワイヤレス技術シリーズの第1編です。
高周波システムの基本
すべてのRFシステムは、送信器と受信器の2つの主要要素で構成されています。名前が示すとおり、送信器は信号を受信器に送信し、受信器は信号をリスンします。
システムには、送信器と受信器の通信方法を定義する一連のルールが含まれます。ルールセットは単純に、送信器は特定の周波数で受信器と通信する必要があるとしています。より複雑なルールセットでは、周波数だけでなく、送信器と受信器が通信する時間、どれほど「騒々しく」対話できるか、対話に使う「言語」、および互いを「聞く」ことができない場合にどうすべきかということが定義されています。米国の連邦通信委員会 (FCC) といった政府の規制機関は、電気電子技術者協会 (IEEE) などの国内および国際規格団体と同様に、こういったルールを制定しています。
初期設計に伴う問題
初期のRFシステムでは、送信器は、単純な受信器に情報を送信するセンサに接続されていました。初期のシステムには、帯域幅という送信する周波数の範囲と、その周波数帯で送信されるデータの量に制限があり、ほとんどの場合、狭帯域と呼ばれる単一周波数のシステムでデータが移動していました。
初期の集積回路 (IC) 技術の制限により、送信器と受信器が行えたのは、それぞれ送信と受信のみでした。双方向通信も存在しなかったため、受信器が、送信器から送られているすべての情報を受信しているかどうかを知ることは不可能でした。
さらに、信号は、壁やファイル整理棚などの障害物に反射したり貫通したりする際に、劣化したり減衰したりするため、受信器が信号を受け取らないこともありました。RFシステムは、受信器が受信を認識または「ACK」できなかったため、送信された信号が喪失したことにも気づくこともありませんでした。
信頼性が低かったことから、これらのシステムを試した人たちは残念に思い、RFシステムをうんざりした目で見るようになりました。
RFシステム設計の改善
技術が進化するにつれ、無線設計も次の3つの主要分野で大きく改善されました。
- IC技術。送信器と受信器の両方にトランシーバと呼ばれる1つのコンポーネントが追加されました。トランシーバにより双方向通信を経済的に実装できるようになり、信頼性と保全可能性が劇的に改善されました。
- より高い周波数のRFコンポーネント。より高い周波数のコンポーネントは通常より広いRF周波数帯で動作するため、低周波コンポーネントより多くのデータを送信します。ただし、より高い周波数は、オブジェクトを通過する際に、より容易く劣化 (つまり吸収) され、距離が短くなってしまうのが難点です。この効果を太刀打ちするために、設計者は送信器に増幅器を追加し、より感度の高い受信器を設計したため、コストが上昇しています。
- スペクトラム拡散変調。変調は、電波にデータを乗せる方法です。今日、多くの無線システムでは、無線の帯域幅にデータを変調するために、スペクトラム拡散という手法が使われています。スペクトラム拡散によって、複数のユーザーが同じ周波数チャンネルを同時に共有することができます。
今日、一般的に次の2つのスペクトラム拡散技術が使用されています。
- 直接拡散方式 (DSSS) と周波数ホッピング方式 (FHSS) です。ハイブリッドスキームの中には、DSSSとFHSSの両方を使用するものがあります。ISM周波数帯 (産業、科学、医療で使用) で一般的に使用されているもう1つの変調スキームは、直交周波数分割多重方式
- (OFDM). より新しい2つのスペクトラム共有変調テクニックは、超広帯域 (UWB) とチャープ変調で、これらが人気を得始めています。
スペクトラム拡散の歴史とさまざまな種類のスペクトラム拡散の説明は、ISAのチュートリアル「The Physics of Radio」を参照してください。
周波数と変調
ISM無線システムを使用する製品を設計する際に、製品設計者が最初に問いただす必要があるのは、製品がどの周波数を使用するのかということです。データを集中的に使用するアプリケーションであっても、信頼性を強化して電池の寿命を改善するために、データスループット率が製品のニーズを超えられのに十分な帯域幅を提供する周波数である必要がります。
設計者が2つ目によく質問するのは、データを送信する電波に乗せるために使用する変調スキームの種類です。ほとんどの今日の設計には、スペクトラム拡散技術の一種が使用されています。データを素早く転送する必要のあるWiFiといった技術については、IEEEに標準化されたDSSS技術が用意されています。産業用検知システムについては、そのような標準が存在しないため、今日のワイヤレス検出製品は、すべて独自の通信プロトコルが使用されています。
最も人気のある2つのスペクトラム拡散デザインは、直接拡散方式 (DS) と周波数ホッピング方式 (FH) です。DS方式とFH方式がこの帯域幅を使用する方法は、非常に異なっています。
直接拡散方式
DS方式では、送信されるデータまたは入力信号はスプレッダと呼ばれる回路に適用され、ソフトウェアを使用してデータに特有の符号系列を適用します。システムは、そのデータを帯域幅にランダムに拡散し、特定の時間に非常に低い電力レベルで大気に出力します。
同時に、無線リンクの反対側の終端では、受信器が低レベルの信号をリスンし、同じ符号系列をデータに適用します。データに意味がある場合、受信器は送信器の出力を処理して復号します。情報に意味がない場合、受信器はその情報をノイズと判断して破棄します。
特有の符号系列が重要な要素です。この符号系列により、多くのさまざまなDS方式システムは、互いに干渉することなく同じ周波数範囲を使用することができます。
周波数ホッピング方式
FH方式では、帯域幅の使用方法が異なります。このシステムでは、帯域幅は複数の小さな周波数帯域またはチャンネルに分解されます。システムが送信データをより小さな塊に分解すると、送信器が、ホッピングコードパターンとして知られる特有のパターンに従って様々なチャンネルにこれらの塊を送信します。
受信器は送信器と同期しており、ホッピングコードパターンに則った特有のパターンをリスンします。このようにして、データは復号されRFシステムから出力されます。
通信プロトコルによる電波の管理
技術により、広域の周波数で動作する無線システムの構築が可能となり、多くのユーザーが同じ周波数を使用できるようになったことで、さまざまな通信形態での使用が増え続ける、無限とも言える目に見えない媒体へのアクセスをどのように管理すればよいのかという、明確な疑問が浮上しています。
代わりにRFスペクトラムへのアクセスを管理する政府機関は、標準を制定するIEEEなどの協会やセルラー通信工業会 (CTIA) といった特定利益集団から勧告を受けています。米国では、FCCが、まさに数百通りもの用途に、周波数を分割してRFスペクトラムに割り当てています。
たとえば、ISM周波数帯は産業、科学、医療の目的に割り当てられています。それぞれのISM周波数帯には周波数の範囲があります。欧州の国際電気通信連合 (ITU) の900 MHz周波数帯には、902から928 MHzという26 MHzの帯域幅があります。ITUの2.4 GHz周波数帯は2.4から2.5 GHzまでで、5.8 GHz周波数帯は5.725から5.875 GHzです。
各GHz周波数帯は100 MHzを超える広さとなっています。
変調スキームが、周波数帯の使用を管理するルールや規制と組み合わされると、その結果、送信器と受信器が相互に通信するために使用される、通信プロトコルと呼ばれるメソッドが生まれます。
環境と干渉の影響
波動伝播における環境と干渉の影響
RFリンク品質の差
特定のタイミングで特定のチャンネルのある周波数で受信する確率はさまざまです。そのため、通話中の両者が動かずに立っていても、携帯電話の接続が切断されることがあるのです。切断された信号を無線リンク損失と呼びます。
この障害を解決する方法の1つとして、あらかじめ定義されたパターンに従って周波数を変化またはホッピングする方法があります。周波数ホッピングにより、1つの周波数の干渉によってデータパケットを受信できない場合、送信器はパターン内の次の周波数に移行してデータパケットを再送信します。
別の解決策には、送信器と受信器の間に意図的に複数の経路を作る方法があります。この方法は、ネットワークに関して近々公開されるホワイトペーパーで詳しく解説しています。
干渉による無線性能の低下
干渉は、無線信号を阻止したり電気干渉を生成したりするものです。干渉は、無線信号を反射、屈折、または吸収し、信号損失を引き起こします。一般的な干渉には、物体、壁、天井、およびほかの無線が挙げられます。無線リンク損失の問題と同様に、周波数ホッピングによって経路を安定化することができます。
バナーのSureCrossシステム
SureCrossシステムについては、バナーエンジニアリングは900 MHz帯域と2.4 GHz帯域の両方を開発しました。
バナーは、長距離で安価な設計を提供し、データスループット率が最も需要のある検出用途のニーズを超えるため、900 MHz帯域を選択しました。
また、900 MHzシステムはヨーロッパやアジアの多くの地域で使用できないことと、2.4 GHzは世界的に広く使用されていることから、2.4 GHzシステムも提供しています。データ集約アプリケーションに対しより高い帯域幅を提供するため、小さなデータパケットの送信時間がより短くなり、その結果バッテリーの寿命を改善することができます。さらに、トランシーバコンポーネントは広く普及されています。
バナーのSureCrossシステムは、信頼性を改善するために周波数ホッピングを使用しています。900 MHzと2.4 GHz帯域は27個の一意のチャンネルに分割され、これらの27個のチャンネルに16個の疑似ランダムホッピングパターンが定義されています。どのホッピングパターンコードを使用するかは、ネットワークIDによって決められます。最大32個のバナーSureCrossシステム (16個の900 MHzと16個の2.4 GHz) を同じ物理空間で共存させることができます。干渉はありません。